０５．０９．２６．

　　　　　　　　　　　　　　　　新　内　　　　　　　　に　ご　り　え

　　　　長月も余日少なくなれば、吹く風の涼しく、
　　　　素肌にさやかに、ここち良くなりたり。

　　　　この日、東京三宅坂国立劇場大劇場にては、
　　　　東西顔見世名流舞踊会とて、数多の日本舞
　　　　踊の家元、名手、俊英相集いて、華やかに
　　　　艶と技を競いけり。

　　　　なかに、上方より、花柳旭叟師の来たりて、
　　　　新内の手にて、樋口一葉作の　にごりえ　を
　　　　演じたるあり。

　　　　女史は、我が母校大阪府立高津高校の後輩
　　　　にて、水泳部の籍にても前後したり。

　　　舞の詞は西脇和義、曲は新内勝知与
　　　によるなるも、振り付けは旭叟自らの
　　　創作になるものなり。

　　　折しも時は秋たけなわに、人を恋うる
　　　思いのせつなるものあれば、新内の
　　　音色は、いたく我が心に響きぬ。

　　　一葉の名作、現代（いま）に蘇えり、
　　　源七の一途さ、お力の悩み苦しみは、
　　　百世を経てなお厳然たり。