２００４．１２．２５．

　　　　　　　　　　　　韓国　と　北朝鮮　　　　　　　　　　　　　　　　安藤　義信

１　　　はじめに

　昨今の韓流ブームはまことに目覚しい。
　「冬のソナタ」のヨン様人気は全く衰えを知らず、テレビは連日「完全版」の再放送を繰り返し
ている。確かに彼はすぐれて男前であるし、身に付けているもののセンスも抜群である。

　それに引き替え、「北朝鮮」の評判はがた落ちである。
　二度の小泉首相訪朝にも拘わらず、「核問題」「拉致疑惑」「工作船」への不信はつのる一方
で、「六ヶ国協議」も一向に進展しない。「経済制裁」の声は日に日に高まっている。

　日清、日露の戦争を経て、日本が韓国に統監府を設置してから来年で１００年になる。
　伊藤博文がハルピンで狙撃された翌年、、日本は韓国を併合し、朝鮮総督府を置いたが、
それは明治４３年（１９１０）であった。以降、日本は朝鮮を植民地として支配した。

　昭和２０年（１９４５）、朝鮮は日本の敗戦で解放された。
　しかしその後、朝鮮は南北に分断され、１９４８年８月に大韓民国、翌９月に朝鮮民主主義
人民共和国が発足した。
　昭和２５年（１９５０）６月、両国は戦火を交えるに至り、所謂朝鮮戦争が始まった。
　戦乱は約１年で収まったが、正式に休戦協定が調印されたのは３年後の１９５３年７月で、
その後も両国は東西冷戦の煽りを受け、法的には今も交戦状態にある。

　日本は、韓国とは昭和４０年（１９６５）、佐藤内閣の時に「日韓基本条約」を締結し、正式に
国交を樹立した。それから来年で４０年になる。
　その後韓国と日本は、金大中事件（１９７３）、竹島領有問題等もあって、平穏な時代ばかり
が続いたわけではなかったが、今日では一応良好な関係が維持されている。
　同国の経済発展は目覚しく、１９８８年にはオリンピックを開催するまでに成長した。

　一方の北朝鮮については国交はまだ結ばれていない。
　正直なところ実情もよく判らない。
　金日成、金正日、と二代の独裁政権が続き、同国は国際社会で孤立し、経済も不調で国民
は飢餓に喘いでいる。脱北者も後を絶たない。それでいて核武装を密かに進めているという。
　鉄鉱石などの鉱物資源はむしろ北の方が豊富で、日本も戦前は清津に製鉄所を持っていた
ほどなのだが、経済運営が何故うまく行かないのだろうか。

　戦後６０年を経て、僕は、南北朝鮮と日本の関係があまりに違ってしまった事を大変悲しく
思う。それは一体何故なのだろうか。

２　　　「工作船」の一般公開展示

　　　　　工作船を前から見る　　　　　　　　　　船体前部に４基のエンジンを搭載

　　　　後部に対空機関銃を搭載　　　　　　　　高速推進用の４基のスクリュー

　　巡視船に追跡される工作船　　　　　　　　　　　威嚇射撃で炎上

　　　後部に搭載の小型舟艇　　　　　　　　　　　　　同　　水中スクーター

　平成１３年（２００１）１２月２２日、九州南西海域で不審船が発見され、海上保安庁の巡視船
がこれを追尾、射撃戦の後、同船は自爆沈没した。
　翌年９月、これが引き揚げられ、それは北朝鮮の工作船であったことが判明した。
　どうやら同船は日本の暴力団と組んで、薬物の密輸に関与していたらしかった。

　同年９月１７日の日朝首脳会談では、金正日委員長から、この船の北朝鮮の関与を公式に
認める旨の発言がなされた。　

　引揚げ船はこの後、鹿児島、東京で公開され、本年１２月からは、横浜の海上保安資料館で
永久展示されることになった。その為には約１億円の費用を要したという。
　過日僕はこの展示を見学に出掛けた。

　この事件は、テレビで銃撃戦の様子が放映されたから、僕らの記憶にはまだ生々しい。
　同船は４基のエンジンを搭載して最高時速６１キロで走り、小型舟艇や水中スクーター、
対空機関銃他の武器も搭載していた。

　このように見せられると、一般国民の北朝鮮への不信は一層つのるばかりである。
　このような展示が好ましいことなのか、そうでないのか、僕は真剣に考えさせらた。

　尚、同船が沈没する経緯を整理すると以下のようになる。（海上保安庁資料による）
　
　　�@　　06:20 　　 不審船を発見　追尾開始
　　�A　　13:12　　　停船命令　　人の居ない箇所への威嚇射撃
　　�B　　16:13　　　船体への威嚇射撃
　　�C　　22:09　　　工作船からの攻撃　　正当防衛射撃開始　　３分後に自爆沈没

　海上保安庁は、こちらからの射撃はあくまで正当防衛だとしているが、威嚇射撃が先に
　行われたことは間違いなく、北朝鮮にすれば、先方こそが正当防衛射撃であったと主張する
　に違いない。直接の沈没原因も自爆によるものかどうか争われるだろう。
　むつかしい問題である。

　　

３　　　北朝鮮とはどのような国であるのか　

　北朝鮮に関する昨今の報道、特に拉致事件でのニセ遺骨問題や、ミサイル発射実験の
ニュースを聞いていると、北朝鮮という国は本当にどうしようもない「ならず者国家」であるか
のようである。

　金正日という人物も格好が悪すぎる。どうも親しみを持てず、馴染み難い。

　しかし第二期クリントン政権時代（１９９７〜２００１）の国務長官オルブライト女史によれば、
「彼はそれなりに事実をよく把握して居り、物分りの良い理性的な人物だった」という。
　「ただ彼は孤立した世界に住んで居り、神格化された独裁者であるので、都合の悪い情報は
耳に入りにくい情況にある」と述べて居られる。（日高義樹レポート　番組から）

　　　２０００．１０．２３．　の　会談　　　　　　金大中氏のコメントを紹介する・・・

　当時の韓国大統領、金大中氏からも、米国諜報機関の評価とは異なり、「彼とは理性的な
話し合いが出来る」というアドバイスがあったと言われる。

　一方、北朝鮮では軍部が非常に強く、彼は単なる傀儡に過ぎないという噂も聞く。
　今回の横田めぐみさんの遺骨についても、彼自身は本物だと信じて居たとする報道もある。

　工作船や拉致事件の北朝鮮の関与について、彼は意外に素直にそれを認めた。
　それは国家の威信に関わる重大問題であったが、小泉首相との会談で、彼はあっさりその
事実を認めた。そのニュースを見た時、僕はその率直さにむしろ感動した。
　これで日朝関係も良くなると思った。
　ところがその後の経過は、逆に悪化の一途を辿ってしまった。
　ボタンは何処で掛け違われたのであろうか。

４　　　拉致と制裁問題　

　拉致問題の実体が徐々に明らかになり、北朝鮮の不誠実さが目立って来ると、マスコミは
「経済制裁即時実施」の一点張りになった。世論もその方向に傾斜して来た。
　国会は与野党挙げて、制裁実施を決議してしまった。

　実際、被害者ご家族の方々の心情は察するにあまりある。
　もし現在も生存者ありとするのなら、その救出には最大限の努力をすべきである。
　しかし、此処は冷静に対処する段階であるように僕は思う。
　
　経済制裁の具体的な方策は、「食料援助の中断」と「貿易や送金の禁止乃至制限」だろう。
　しかし大局的に見て、その効果はどんなものであろうか。
　拉致問題の解決には役立たず、結局は、北朝鮮の飢餓を拡大し、反日感情を一層強める
だけにしかならないのではなかろうか。
　日朝関係の改善という観点からは、却ってそれを遅らせる要因になるのではなかろうか。

　米国や中国も、「核兵器問題」を最大の脅威と考え、「拉致問題」は、日朝二国間の問題
だとして、積極的な関与は手控えている。
　下手に相手を追い込むと、北朝鮮はやけくそでミサイル発射の暴挙を起こすやも知れぬ。
　そちらの危険の方を大きく考えている。
　当面、拉致事件や工作船事件の再発を予想し難いのは間違いない。

　
　５　　　南北統一の悲願

　それにしても、朝鮮半島の南北統一ということはどうすれば実現するのだろうか。
　そして、そもそも朝鮮の人々はそのことを心底から望んでいるのだろうか。

　南北は、元々、倭族と鮮卑族（女真族）という風に民族が異なると言われている。
　歴史的にも、百済・新羅と、高句麗とに分かれて存立して来た。
　そして何より、中国と地続きである故に、その影響が大きかった。楽浪郡や帯方郡として
中国の植民地であった時代もある。
　朝鮮半島全体の領域で南北が統一されたのはそんなに昔のことではなく、その後も
中国や日本の支配、干渉を受ける時代が長く続いた。

　南北統一という命題が、もし一方が他方を吸収する意味で唱えられているのなら、それは
決して歓迎されるべきことではない。

　その辺の微妙な問題は、不勉強な僕に意見を述べる資格はない。
　しかし、アジアの平和、安定という問題は、日本、韓国、北朝鮮、更には中国・台湾の
各国が、今より一層仲良くなって行かなければ解決しない。

　北朝鮮問題は、アジア全体の平和という命題を第一に考えて決断されねばならない。
　
　このことは、北朝鮮の行動にも求められる命題である。

※　　　北朝鮮問題については、昨年掲載した　「随想６〜１０」　も御参照下さい。

※　　　お便り欄に、川上　良夫君　と　小田　一栄様から感想を寄せて戴いています。
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